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福島県相馬市における交付税改革と地方行財政

地方行政論(荒木田 岳 教授)レポート 
2008/7/30 氏 家 拡 譽

福島県相馬市における交付税改革と地方行財政
            
〓序 論〓

 相馬市の財政状況は、景気の低迷による市税の減収、地方交付税減少による歳入の減額、また国の
景気対策による公債費負担の増加により収支バランスが崩れ、財政悪化傾向となっている。この傾向
を打開すべく、遊休市有地売却や人件費削減及び事務事業の見直し等により、「効率的な行政運営」
を目指している。但し、今後も扶助費、退職者増加による義務的経費の増加等により厳しい財政運営
が続くものと予想される。また、更なる行財政改革が求められている中、市当局では定員・給与の適
正化による人件費の削減と補償金免除繰上償還により公債費負担の軽減を図り、早期の財政健全化を
図るビジョンを示唆している。
 他方、退職者不補充とパート従業員の適所雇用をはじめとする、人件費削減及び事務事業の見直し
は、市当局の見解である「効率的な行政運営」であるが、万が一にも適正運営を誤ると、直ちに行政
サービスへの悪影響が発生しかねないので、十分に留意すべき要件であろう。そればかりか、近い将
来発生が予想されている、宮城沖地震などに対する防災や治安等に対しても配慮しなければならない。
(例えば、大規模地震により市立の幼小中学校・病院等が崩壊し死傷者が発生するようなことがあれ
ば、それは天災ではなく人災なのである。市民の生命と財産を守るために、最低限必要な歳出までも
圧縮することは「効率的な行政運営」では決してないのである。)

〓具体的な財政状況の分析〓

 景気の低迷による市税の減少は慢性化しつつあり、別添1の表及びグラフのとおり、地方交付税の
削減も平成13年度以降は対前年度比マイナスが続くなどによる歳入の減額に際して、その財源不足分
を財政調整基金を取崩して対応している状況である。また、財政力指数は(基準財政収入額/基準財
政需要額)は0.5程度で推移しており、最近の経常収支比率も12年度78.2% 13年度80.9% 14年度81.6%
15年度82.6% 16年度88.4% 17年度90.7% 18年度94.2% と財政の深刻化(悪化)が恒常化している。
 歳入面では相馬市中核工業団地への企業進出が開始され市税等の多少の増加は見込める状況だが、
国の財政改革により普通交付税は更に減少するものと予想される。一方、歳出面では扶助費や退職手
当等の義務的経費の増加や、債務負担行為に係る元利補給金や特別会計への繰出金の削減も難しい
状況であることから、厳しい財政運営を強いられる期間が、今後も継続するものと考えられる。

〓相馬市の今後の取り組み〓

 多くの地方自治体では、今後とも地方交付税の大幅な削減が進められるならば、地方財政は危機的
な事態に陥り、医療・福祉・教育などの市民生活に重大な影響を及ぼすだけでなく、地方自治の運営
そのものが立ちいかなくなることも危惧される。換言するならば、地方交付税がなし崩し的に削減さ
れ続けば、自治体(経営?)は成り立たない。地方分権を実現して自立することはできない。
 相馬市では、別添2〜5のとおり「財政健全化計画」を公表した。それによると、『平成19年度か
ら平成27年度までは、借入金の返済額が過大なため、単年度収支が赤字となり基金が減少していきま
すが、平成28年度から黒字に好転する見とおしです。』(相馬市ホームページより)とある。
 これらは論理的方法論に基づく科学的検証なのだろうが、「絵に描いた餅」にならないという保証
はどこにもない。例えば、大規模災害(激甚災害指定)や更なる景気低迷。また世界規模での金融不
安や恐慌、環境破壊や飢餓、テロや戦争といった不確定要因は勘案されていない。加えて、将来にお
ける人口予測などの基礎的な評価さえ不確実と言わざるを得ないのである。

〓私 見〓

 自治体の予算は損益計算の予想が単年度主義に基づいているといえる。行財政改革とは、本来特別
会計を含めた連結ベースでの借金総額と、支払い義務を負う経費(例えば退職金)を把握することが
重要である筈なのだが、一般的に、自治体というものは前年度の損益計算書はあっても一番必要なバ
ランスシートがなく財政の実体が分からないのだ。
 相馬市でも、残念ながらこれらの諸問題は未解決のままで、たとえば暫定的な措置として、学校は
資産に計上し、国に対する債権は計上していないままであるが、将来の財政シミュレーションとして
「今後20年の財政見とおし」=財政健全化計画=つまり資金繰り目論見とでもいうべきものを公表し
た。
 これによれば、返済計画と退職金発生予想などの今後の義務的経費を年度ごとに並べ、そこに必要
最低限の公共事業を加えて今後の歳出の大枠を掴むことは可能だ。他方、歳入であるが将来人口の予
想などから市税の大体の目論見は可能だが、予測の最も難しいのが依存財源であり、とりわけ地方交
付税と特別地方交付税の今後の推移である。
 いずれにせよ、相馬市は「財政健全化」という避けては通れぬこととはいえ、現況の地方自治体と
しては「難題?」ともいえる極めて厳しいミッションに、果敢な挑戦を開始したといえよう。
硬直した歳出抑制主義との批判もあろうが、私はこのベクトルは決して誤ったものではないと考える。
つまり、少しでも先送りしたならば・即・財政破綻・だという危機意識が根底にあるからだ。痛みも伴う
決断だが、もう先送りはできない状況なのである。
 但し、市民の「生命と財産が何より最優先で担保されなければならない」ことはいうまでもない。
(相馬市が災害等緊急拠出資金として確保しているのは僅かに30億円だけ)更には、現代の自治体に
求められている要件は多岐にわたり、財政逼迫の砌、税金を使う限りは納税者である相馬市民にきち
んとした説明責任を果たすための情報開示、つまり透明性の確保が信頼関係の構築に繋がると考える。
小さな自治体の弱点を逆手に執って、顔が見える行政政策の実現こそが、現下の歴史的な危機を打破
する突破口になるのではないだろうか。そのときこそ、痛みを伴う「財政健全化計画」の理解を共有
することができるのであろう。


相馬市地方交付税(普通+特別=合計)の推移

   年 度    普通交付税     特別交付税      合  計    増減比
平成 9年度    4,026,804      600,267      4,627,071      4.4
平成10年度    4,115,393      638,120      4,753,513      2.7
平成11年度    4,231,248      711,021      4,942,269      4.0
平成12年度    4,308,492      738,131      5,046,623      2.1
平成13年度    3,994,457      686,091      4,680,548    ▲ 7.3
平成14年度    3,912,950      667,070      4,580,020    ▲ 2.1
平成15年度    3,876,941      621,281      4,498,222    ▲ 1.8
平成16年度    3,618,448      556,157      4,174,605    ▲ 7.2
平成17年度    3,628,877      500,088      4,128,965    ▲ 1.0
平成18年度    3,432,556      499,054      3,931,610    ▲ 4.8
                               単位:千円/増減比:%


あとがき 

相馬市の平成19年度退職者数は20人で、新規正規採用枠は僅かに5人で、パート従業員を若干名補うだけだそうだ。しかも、パート従業員は最長でも3年間しか更新できないという。このままの状態が永年継続されれば、正規採用者は過半数を割り、勤務経験年数3年未満のパート従業員が過半数を超えてしまう。正規職員の仕事は増え、給与カットは恒常化し、モチベーションの維持も「言うに易く成すに難し」状態なのではないだろうか。市役所に勤務する職員もパート従業員も、「納税者でありその多くは相馬市民である」ことを理解することも肝要なのではないだろうか。




  1. 2008/09/29(月) 14:42:24|
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